実践記録

 

学習意欲を喚起するなかで漢字や計算の力を付けていく試み

副題=「君谷塾」の実践から



優秀賞を受賞(県で上位2点に選ばれ、全国審査(14年秋)に出品が決定。)
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                     平成13年度 教育公務員弘済会応募論文
島根県邑智郡邑智町立君谷小学校の実践

 

1.本校を取り巻く環境と児童の状況

  本校は山々に囲まれ、近くを小川が流れ、まさに文部省唱歌をなぞるような環境にある。また、地域は高齢化率40%を越える「過疎の村」だが、人々は人情に厚く、古きよき風情が残っている。

  本校の児童は、19名(一年5名、二年4名、三年2名、四年3名、五年3名、六年2名)。

 少人数のため、全校児童が学年の枠を越えて関わり合っている。時にはぶつかり合い、時には支え合い、まるで兄弟姉妹のように学校生活を送っている。自由遊びの風景は、まさにギャング集団そのものである。  中学校に進学してからは、こうやって培ってきたリーダーシップを発揮してか、生徒会や学級の主役を演じている卒業生が多い。

  本校の自慢となっている、伝統的な実践が二つある。 一つは、全校合唱。頭声発声による2部合唱は近隣では注目されており、昨年度、県音楽連盟の奨励賞(=全県で1校)を受賞した。 今一つは、全校俳句である。地域講師を招き、全校児童・教職員が、年3回、作品づくりを通して、季節感や言語感覚を学んでいる。

  なお、3年前から毎日、「朝の読書」を実施しており、着実に成果を上げている。(これは、昨年度、貴会教育研究論文の研究主題に取り上げ、応募した。)

  

2.主題設定の理由

 来年度から、新しい学習指導要領に基づいた授業が始まる。すでに本校では、今年度から「総合的な学習の時間」を週3時間実施しており、成果とともに課題も見えつつある。

 なかでも、課題として次の2つが上がっている。

 一つは、調べ学習の際、地域の方にインタビューする機会があるが、「うまく話を引き出せない」、「メモの取り方が不十分」、「学校に帰ってから、聞いた内容を再現し切れない」など、国語科の「音声言語」能力の不足である。これについては、昨年度から校内研究の柱に据えて取り組んでいる。

 今一つの課題は、基礎学力である。調べ学習の際、書籍類やインターネットに当たる必要がある。が、児童は、そこに書かれている文章が読めない、内容が読みとれない、という壁にぶち当たり、そこで学習意欲を失っていくというケースが出てきた。

 そこで、「総合的な学習の時間」の学習を支える意味からも、また、(寺子屋時代から、日本の学校教育の大黒柱となっている)不易の学力、基盤となる学力を着実に身に付けさせる意味からも、「読み・書き・計算」の学習を、全校ぐるみで取り組むことにした。

 

3.実践の概要

(1)経 緯

 上記の理由により、昨年度、業間の前半15分を使い、「君谷塾」と名付けて、2学期は計算を、3学期は漢字書き取りを、試験的に実施した。

 君谷塾(理科室に看板を掲げ、転用)には、問題プリントが、100級から1級まで100枚準備されている。児童は、全員が100級から始めて、自分のペースで、どんどん上の級に挑戦していった。

 この取り組みは、子ども達に反響を呼んだ。思いがけないほど学習意欲を喚起し、家庭学習を促し、大きな成果を上げて終えることができた。

 そこで、今年度は、次の目標を掲げ、「君谷塾」重視の業間とし、本格的に取り組むことにした。

@ 達成感を味わうことの積み重ねのなかから、児童一人一人に自信を抱かせ、他の学習にも前向きに取り組むことができるようにする。

A 全校児童が一堂に会して取り組むことにより、異学年同士がお互いに競い合い、尊重し合ったり励まし合ったりできるようにする。

B 「練習すれば100点とれる」という成就感を味わうことを通して、家庭学習の習慣を身に付けさせるようにする。

 

 また、業間前半15分間について、下記のように計画を立て、毎日欠かさず時間をとるよう意思統一を図った。 

1学期=全校合唱の基礎練習

2学期前半=「君谷塾」漢字の読みテスト

2学期後半=「君谷塾」計算テスト

3学期=「君谷塾」漢字書き取りテスト

 

(2)「君谷塾」漢字読みテストの実践

◆ 実施日は、9月〜10月の授業日。毎日。

◆ 実施時は、業間の前半(10:15〜10:30)。

◆ 実施場所は理科室。「君谷塾」と看板を掲げる。

◆ 問題プリントは、4人の学級担任が分担して作る。

◆ プリントは、100級から1級まで作る。

◆ 採点者は、全教職員。適宜、個別指導も行う。

◆ 児童には、プリントを綴じるファイルを配る。

◆ ファイルには、毎日、合格シールを貼ってやる。

◆ 最終的に到達した級は、塾長が認定証を授与する。

 

 

1.実践の成果

(1)児童の状況

 全校児童が一堂に会して、同じテストにチャレンジしたということもあってか、連日、熱気あふれる雰囲気が醸し出された。 その結果、自分の学年を飛び越えて、上学年の漢字プリントに挑戦する児童が続出。10月初旬には5人に達した。

 特に、高学年の3人は、10月中旬には、準備していたプリント全部(1級まで)をクリアーした。そこで、本人達の意向を聞き、塾長(校長)が、中学一年で習う漢字の中から、問題プリントを急きょ10枚(=10段まで)作成した。

  最終的には、2学年上の問題まで挑戦した児童が、19人中5人(一年2人、二年1人、五年2人)出た。 また、1学年上の問題に挑戦した児童も5人(一年2人、二年1人、四年1人、六年1人)出た。 ちなみに、期間内に、自分の学年のプリントが全てクリアーできなかった児童は、3人だった。

 

(2)意識調査の結果



















 

 





 

楽しかった

13

 4

 1

 1

楽しくなかった

がんばった

17

 1

 1

 0

なまけた

進んでやった

10

 8

 1

 0

しかたなしにやった

苦しかった

 3

 4

 9

 3

楽だった

役に立った

16

 2

 0

 1

役に立っていない

家で勉強した

10

 4

 1

 4

家では勉強していない

漢字の力が付いた

16

 2

 1

 0

特に力はついていない

またやりたい
 

11
 

 5
 

 1
 

 2
 

もうやりたくない
 

★児童の感想文から

 この君谷じゅくをやって、すごく漢字が使えるようになりました。本を読んでいても、漢字が読めるようになってきました。本当に勉強になりました。君谷じゅくありがとう。(5年 M子)

  児童の声として、「楽しかった」「自分から進んでやった」「がんばった」「役に立った」「漢字の力が付いた」「またやりたい」が大勢を占めた。 日ごろの君谷塾の様子からして、予想どおりの調査結果であった。

 この間、何もやらなかった児童と、「漢字塾」を毎日積み重ねてきた児童とでは、きっと、どこかで何かが違っていると実感できる結果である。

 学力が付いてきているという実感、学習姿勢の向上、自分も頑張れば100点が取れるという自信、頑張り続けた実績、教職員との心の交流、……大きな成果を収めた「君谷塾」であった。

 

(3)教職員の声から

★ 2時間目が終わると、各学級から競い合うようにして「君谷塾」にやってくる。それほど、やりがいのある場所なのだろう。

★ 小テストということもあって、それなりに勉強すれば、自分も100点が取れる、ほめてもらえる、という励みを抱いた児童も多い。

★ 教師の方も、どんどん100点を付けてやることができて、本当に嬉しい。自分の担任している児童以外とも、勉強のことで交流ができてよかった。

★ 日ごろは同級生が一人か二人しかいない中で勉強しているため、刺激が少ない。その点、19名の熱気の中でテストを受けるから、いつもより燃えて取り組む児童が多かった。

 それぞれの学級でこういうテストをやっても、ここまではのぼせなかっただろう。

★ 仲のいい者同士、競い合って先に進んでいたのがよかった。家庭学習も、日によっては1時間以上費やしたようだ。

★ 自分より下の学年には負けたくない、追い越されまいと、それが励みで頑張った子もいた。

★ 学習習慣が身に付いていない児童にとって、自分の姿を認識するよい機会となったようだ。

★ 行事などに振り回されず、君谷塾の時間をコンスタントに確保したことは大きい。

★ 2ヶ月という短いスパンで、計算と漢字とをやったので、子ども達は目標も立ち、やる気も持続できた。

★ 学級担任以外の教員に丸付けしてもらったり、教えてもらったり、励ましてもらったりという場面が、日常的に見られた。そういう点でも意義があった。

  この企画を設定したのは教員だが、子ども達の予想以上の反響に後押しされるように、教職員も「君谷塾」へ駆けつけた。そして、ともに熱気あふれるひとときを過ごすことができた。この毎日の積み重ねの意味は大きいと自負している。

 なお、保護者からの反応も良好で、学級担任に、次のような声が届けられている。

 「わが子の勉強の進み具合を知ることができて、家庭での生活を見つめ直しました」、「テストが毎日あるので、前より勉強するようになったと思います」、「他の大きな学校の中では、どのくらいの成績なのかが知りたいです。でも、こうやって、毎日コツコツ勉強していることが、まずは大事なんですよね」。

  

4.今後の課題

(1)教職員の声から

★ 1年生のA児は、毎日毎日、同じプリントを途中までやっては投げ出すということの繰り返しだった。

 教員が入れ替わり立ち替わりのぞいては励ましていたが、効果は少なかった。学習姿勢の問題もあるが、能力(個性)を考慮する必要がある。

 3学期には、この子には特別のプリントを準備してやりたい。(2学期後半の、計算テストも。)

★ 6年2名は、家庭学習の習慣が付いていなかったので、毎朝、確認テストを行った。一人はまもなく時ステキに(家庭学習が)できるようになった。が、B児は最後まで続けた。家庭学習の意識は高まったとは思うが、習慣化にまでは至っていない。

★ 君谷塾でマスターしたはずの漢字がが、他の学習場面で出てきたときに読めないというケースが見られる。これは、どう考えたらいいのだろうか?

 

(2)まとめ

  上記のように、さまざまな課題もはらみながら「君谷塾」(漢字の部)が終わった。

 特に、学習能力の差に対応した配慮、及び、学習習慣・学習意欲など)に対応した支援について、今後、研究していく必要がある。

 

5.おわりに

 11月からは「計算塾」が始まっている。基本的には昨年度と同じプリントを使っているが、低学年については、別仕立てのテストを作成し、どんどん昇級できるよう配慮している。

 2時間目が終わると、子ども達は寒さを吹き飛ばして「君谷塾」にやってくる。熱気あふれる雰囲気の中で、すでに(11/30現在)12級まで進んでいる児童もいる。

 が、しばらくすると、なかなか次のプリントに進めない児童が続出する。

 19名の児童に対して、8名の教職員。極小規模校のよさを生かすときが来る。

  

資 料

1.問題プリントの例

  

2.児童の個人ファイル(合格シール) 

 

3.認定証

  

4.学校だよりの記事から

 9月5日(水)……「君谷小だより」24号から
 君谷塾は燃えています


 昨年度行っていた「君谷塾」が帰ってきました。
 1学期、業間前半の15分は、毎日「ヴォイストレーニング」を行ってきました。2・3学期は、「基礎学力養成」に活用します。
 さっそく2学期前半は、「漢字の読みテスト」です。各級10問ずつ、100級から1級までプリントが準備されています。
 この日は、塾長(=校長)からの激励がありました。漢字を覚えると、本がすらすら読めるようになります。すると、本を読む楽しさが分かってきます。本をたくさん読むと考える力が伸びます。成績もよくなります。ぜひぜひ、家庭学習を頑張りましょう。」
 嬉しいですね。毎日「君谷塾」の教室は、熱気むんむんです。100点取るまで、同じプリントに挑戦します。
 さすがに上級生はプライドがあります。がんがん頑張っています。雰囲気の盛り上げ役です。
 一方、採点者(=教員)は、てんてこ舞いの忙しさ。嬉しい悲鳴を上げています。
 

 

9月18日(火)……「君谷小だより」26号から
君谷塾 その後


 毎日、業間に行っている君谷塾、引き続き熱く燃えています。
 すごい熱気の中、1年生の二人は2年生の問題に突入です。
 トップを走っている例の二人は、「僕たち明日から5年生の問題(54級)です!」
と目を輝かせています。
……烏田「家で勉強してるんだね」、「はいっ! そうとうやってますっ」。
 

 

10月31日(水)……「君谷小だより」37号から  
君谷塾(漢字編)終わる


 9月から続けてきた君谷塾が終わりました。
 自分の学年より「上の学年の問題」に挑戦した児童は10人! ……大きな自信つながったと思います。
 塾長のあいさつで、「頑張った人?」、「漢字の力が付いた人?」と聞くと、元気いっぱいに「は−い!」と、たくさん手が上がりました。
 

 

5.学級だよりの記事から(4学級通信)


 9月から始めた君谷塾(漢字編)、6年生の歩君を先頭に、練習・本番とよく頑張り続けました。もちろん進級した級(段)は素晴らしいもので、中学生の漢字まで挑戦した人も出ました。
 しかし、それ以上にほめてやりたいのは、中だるみすることなく、根気強く取り組んできたことです。
 私の叱咤激励もありますが、友達同士が競い合い、励まし合って、ここまでやってきたことです。これは、学級の力として、今後のやる気につなげていきたいと思っています。
 11月からは計算塾です。力の限り頑張っていきましょう。